MIKE OLDFIELD
TUBULAR BELLS UK/VIRGIN/V2001
すでに伝説化されている名作。７３年５月にヴァージンの第一作として発売された。一人で２３００回ダビングを重ねた、といわれている。全て一人で作り上げたわけではなく、ゲスト・ミュージシャンを多数迎えているし、専属エンジニアやスタジオのスタッフの働きも当然あるだろう。それでも、マイク・オールドフィールドという一人の青年（当時２０歳！）の突出した感性が作り上げたこの作品は、時代に受け入れられ大ヒットを記録した。彼は１９５３年生まれだが、音楽が特定の人種や階級、或いは宗教やアカデミズムと結びついていた時代が終わり、若いうちからレコードやラジオなどであらゆる音楽に並列に接することの出来る世代に属する。ロックでもなければクラシックでもなく、ジャズでもフォークでもない（逆に言えば全てでありうる）、この何に対しても借りがなく、とにかく自分の感性だけを頼りに作り上げていく姿勢は、新しい音楽世代の旗手としてもてはやされた。そしてそのような感性によって作り出される旋律の美しさ、展開の妙が違和感なく万人に受け入れられたからこそこの作品はヒットしたのであり、彼の持つ感性の普遍性が証明されたと言えるだろう。ロックであればロックの、ジャズであればジャズの、メディアとしてのメッセージ性を帯びてしまうのが普通であるが、その点この作品は聴き手の自由に委ねられる度合いが高く、言い換えればマイク本人の感性こそがメッセージなのである。その点、最初の部分がエクソシストのテーマとして使われ一つのイメージが定着してしまったのは、この作品としては不幸なことであった。
そしてある意味中身の音楽以上に有名なのがこのジャケットである。波の打ち寄せる海岸に浮かぶチューブラー・ベルズ。金属的な、ぐにゃっとした曲線は美しいし、宙に浮いている姿はシュールである。一方裏ジャケでは、海岸で人骨（左下隅にあるのは頭蓋骨？）のようなものが燃えている。かつて出ていたＣＤは、トリミングでこの最も重要な部分がカットされていた。これは古代人の葬式か、何らかの儀式の跡だろうか。このアルバムのＢ面中盤には「原人（Piltdown Man)の雄叫び」が収録されている。Piltdown Man というのはニセ原人なのだが、マイク扮するニセ原人が言葉にならぬ声を発し、時間は太古へとさかのぼっていく。裏ジャケの海岸は現在のものではなく太古の昔の風景であり、何百万年と変わらぬ姿で波を受け続けているのである。そしてその上に浮かぶチューブラー・ベルズ・・・・。
HERGEST RIDGE UK/VIRGIN/V2013
７４年８月に発表された第二作。よりナイーヴな感性が全面に出ており、端正的であった「チューブラー・ベルズ」よりはかなく夢幻に満ちた音世界が展開されている。一聴すると地味なイメージだが、全体としての流れ、展開は前作よりスムースであると感じる。表ジャケットは、魚眼レンズで撮影されたような閉じた世界にグライダーと犬が一匹というコンセプト。そして裏ジャケは、逆行に映える濡れた犬、低くたれ込めた雲、薄暗い田園風景。表がユートピアだとすると、裏は現実か。この犬はアイルランドから密輸入された狼を天敵とする猟犬で、名前をブートレッグというらしい。この犬について、ライナーで間章は次のように書く。
「この狼を狩るために育てられ続けてきた猟犬は追い求めるものを何代もの血の中で探している。しかし追い求める狼はもう絶滅してどこにもいないのだ。けれどもこの猟犬はそのことを信じようとも自分に言い聞かせようともせず、まだ知らぬ、そして今はない幻の狼を探し追い求めるために野を山をかけ、空をいつまでも見つめ続けているのだ。地平線の果てを・・・・夢と幻の中にしかあるはずのない狼を求め、その犬は孤独に、だが誇り高く・・・・。」
天敵を失った猟犬とは何のために存在するのだろうか。何のために、などという問いを発すること自体が不毛であることは分かっているが、人間とは「存在の意味」を問うてしまう存在なのである。私はこのアルバムのテーマは「永遠の孤独」とでもいったものだと思うが、表ジャケの閉じた世界の中の一匹の犬は、実は自分自身なのかもしれない。
OMMADAWN UK/VIRGIN/V2043
土着的な方向性を示した３作目。前２作よりさらに多彩なゲスト、アフリカン・ドラムスなども迎え、力強さとはかなさが絶妙な均衡を保つ。最高作に推す人も多い。インサートにはゲストとの記念写真が掲載されており、マイクも幾分外向的になったのかな、と思わせる。だがこの後、彼は神経に変調をきたし、療養を余儀なくされてしまう。
ジャケットは前２作のトレバー・キイに変わってデビッド・ベイリーという人が担当。マイクのジャケは水に関係するものが多い。「チューブラー・ベルズ」の海岸、「ハージェスト・リッジ」裏ジャケの湿った風景と濡れた犬、「呪文」の海岸、「プラチナム」の水銀、「QEⅡ」はタイトル通りの船の抽象画、「ファイブ・マイルズ・アウト」の雲の海、「クライシス」の海岸、「ディスカバリー」の水面に映る顔、ｅｔｃ。そして「オマドーン」は、水滴の後が残るガラス越しに何かを見つめるマイク。彼は水滴の向こうに何を見ているのか。
INCANTATIONS UK/VIRGIN/VDT101 独盤付属ポスター ジャケと微妙に違う
マイクご本人が海岸にたたずむ。文句なしにかっこいい。垂れ込めた雲、昼間なのに薄暗い風景、波の打ち寄せる烏帽子岩、マイク以外誰もいない海岸。レーベル面に使われた烏帽子岩の写真はジャケットとはちょっと違います。個人的にマイクの中では最も好きなアルバム。この場所に行って、この風景を眺めながらこのアルバムを聴けたら最高ですね。
というわけで、この場所にはとても行けないので、かわりに茅ヶ崎の烏帽子岩を眺めながらこのアルバムを聴いてきました。結構感動しました。ちょっと海岸から遠いのが難点ですが・・・・。
HOME